プロジェクトリポート「ザ・パークハウス 五番町」番町エリアに生まれた、都市の余白。
2020年11月24日
かつての江戸城外郭である外濠のほとり、千代田区五番町。
武家屋敷が建ち並んだ歴史と、現在のにぎわいをあわせ持つ街並みにひときわ静寂な空気を纏うレジデンスが誕生した。
photos by Teruhisa Kobayashi
text by Norihiko Morita
江戸幕府を創設した徳川家康が、大番組と呼ばれる旗本たちを住まわせたことから生まれた地名「番町」。
なかでも江戸城外郭門のひとつ、市谷御門があった五番町は、旗本屋敷(武家屋敷)が整然と軒を連ねていたという。
明治時代以降は多くの芸術家に愛され、フランスの風刺画家ビゴーや小説家の泉鏡花、内田百閒らが五番町の住人として知られている。
そんな歴史ある街に『ザ・パークハウス 五番町』は誕生した。地上13階建の現代建築は、かつての武家屋敷をオマージュとした空間構成により、理想の住まいを実現している。

重厚感とシンプルさが際立つエントランス。
建築密集地に生まれた「余白」のある住まい
JR中央・総武線市ケ谷駅から徒歩2分ほど。にぎわう駅前の大通りを折れ、商業ビルの連なりに沿いつつ歩を進めると、突如として『ザ・パークハウス 五番町』が現れる。
少し驚いたような表現をしたのは、その佇まいが周辺のビル群とは異なるからだ。
多くが幅員6m未満の公道ぎりぎりまで建物を配棟し、道行く人に圧迫感を感じさせているのだが、『ザ・パークハウス 五番町』にはその圧迫感がない。公道から18m以上壁面を後退しているので、一見すると小さな公園があるかのようだ。そして、その空間の先に住棟が、空に向かって伸びている。

石づくりのゲートから『ザ・パークハウス 五番町』の静寂空間が始まる。
「求めたのは”都市の余白”です。奥行きのあるアプローチをつくることで、駅前の喧騒から私空間へといざなう住まいを実現しました」
三菱地所レジデンスの井上健一は、駅前の商業ビル密集地でもある五番町の特性を逆手にとり、あえて余白を感じさせる空間を設けるプランを考えた。
それは、延床面積3000㎡以下という前面道路に起因する東京都の建築安全条例をクリアしながら、ゆとりある住まいを計画したプランともいえる。
敷地いっぱいの中層レジデンスとするよりも建ぺい率を約30%に抑え、高層化することで余白を生み出し、都心の住まいの付加価値を最大限に高めた。
「駅に近くフラットな道なりはメリットですが、雑然とした街並みであることは、住まいとして懸念される部分です。しかし、設けた余白が街のにぎわいから安らぎの住空間へ切り替える役割を果たし、歴史ある番町に立地するに足る品格と上質さを備えました」
「にぎわい」から「私空間」へいざなうアプローチ
『ザ・パークハウス 五番町』が立地する市ケ谷駅周辺は、商業・業務ビルが密集する「駅近建築密集地」でもある。
この立地環境であっても上質さ、静けさを感じられる住まいとするため、通常なら敷地北側の公道に建ち並ぶビルに沿って配棟するところを、敷地の南側に配棟。
公道から約18m壁面を後退させ、車寄せのスペースを計画することで沿道までの開放感をもたらしている。

照明のあかりに浮かび上がる『ザ・パークハウス 五番町』
「市中山居」の現出、番町邸宅の系譜
五番町にふさわしい住まいを創出するにあたり取り入れたのは、かつて軒を連ねた武家屋敷のイメージだ。武家屋敷の空間構成をモチーフに、外構・共用部を設定することで居住者の心象風景に影響を与えることはできないか、と井上たちは考えた。
「武家屋敷の『門〜前庭〜玄関〜母屋〜中庭』といった空間構成を、『ザ・パークハウス 五番町』に当てはめました。この動線を経て、住まいへと至る道筋は、都市の喧騒から『住』へと気持ちを切り替えるための仕掛け。室町時代から続く『市中山居』という都心居住の理想をイメージしています」
市中山居とは、中心市街に住みながらも山のなかに暮らすような住まいのこと。都心の利便性を享受しながら、自然を感じる穏やかな暮らしを実現することだ。
『ザ・パークハウス 五番町』において、それを追い求めたシンボリックな場所が、ラウンジから眺める「清流の庭」だろう。亀甲模様が現れる相木石などの積層に、水が染み出し流れる滝組は、「市中山居」のイメージを具現化したものだ。

花崗岩の床と大理石の壁が重厚感を与え、その先に中庭の風景が広がる。
実際に、しばしラウンジのソファに腰を下ろし、清流の庭を眺めてみる。確かに、そこは数分前に歩いた市ケ谷駅前の喧騒とは対極とも言える空間だ。
ゲートからアプローチを通り、エントランスを抜ける道程。その先のラウンジと目の前の庭。時間的にはわずかな「間」であるが、居住者の心象風景はゆっくりと変化するだろう。動から静へ。パブリックからプライベートへ。その心の動きそのものを共用スペースに昇華したのが「市中山居」を標榜する『ザ・パークハウス 五番町』の求めた空間設計なのだろう。都市の余白を単なる開放感だけでなく、住まう人々の気持ちによりそうように配慮、計画している。
武家屋敷をモチーフにした空間構成で、番町邸宅を継承
番町に由来する武家屋敷と、現代の機能を重ね合わせた空間構成をイメージ。門から始まり、前庭、玄関、客間、中庭へと続く武家屋敷をモチーフに共用スペースを構成することで、居住者は奥行きのある住まいを実感できる。なかでも中庭である清流の庭は、室町時代より続く「市中山居(都市の中心地で山中に住まう)」の理想を体現したもの。
番町エリアの自然を住まいでつなぐ。
公道から約18m壁面後退した『ザ・パークハウス 五番町』は、その距離から生じる外部からの視線にも配慮している。内と外の境であるバルコニーでは、下層階に「躯体手摺り」を採用し、室内・生活を閉じるしつらえに。中層階は「躯体手摺り」と「ガラス手摺り」、高層階は「ガラス手摺り」と階調させることで外部とのゆるやかなつながりを構築している。壁面後退した余白による開放感がありながら、プライバシーに配慮した設計を施している。
「にぎわい」から「私空間」へいざなうアプローチ
居住空間と外界を隔てる中間領域であるバルコニーは、セットバックした約18mの空間(余白)と、バルコニー手摺りを躯体手摺りとガラス手摺りのバランスで下層階から上層階まで沿道から室内が見えないように計画。外からの視線と内からの視線の良好な関係を実現した。 なお、ビルが建ち並ぶ五番町のなかに「余白」を生み出した設計プランや前出の武家屋敷をモチーフとした空間構成が評価され、2019年度のグッドデザイン賞を受賞している。

沿道や車寄せから見上げても、住戸内が見えない設計でプライバシーに配慮。下層階は躯体手摺りを採用し、中層階は躯体手摺りとガラス手摺り の組み合わせ、上層階は眺望を邪魔しない全面ガラス手摺りを採用することで外部からの視線が気にならないように計算されている。
グッドデザイン賞受賞時の審査員評価コメント
狭小道路に雑然とビルが立ち並ぶ駅周辺の街区に対して「余白」という価値を提示している点がまず共感できる。集合住宅とは単に住まい方の問題ではなく、公共空間を都市の中にどのようにつくるかという試みであり、時に質の高い「余白」の連なりこそが環境の言語をつくっていく場合がある。
また地域の歴史的な文脈をストレートに用いるのではなく暗喩的に空間言語として用いた点、「余白」に対して端正な立面・軒天のデザインとしてまとめている点もプロジェクトを成功に導いており、確かな美学に基づいた全体的調和がある。
「また、車寄せ中央のシンボルツリー(クスノキ)など、植栽にもこだわっています。アプローチや『清流の庭』にも都心とは思えないほどの緑量を求めました。住まいの創出を通じて自然環境にも貢献したいと考えています」
井上は『ザ・パークハウス 五番町』の植栽を選定すべく、各地の植栽農家に赴き、1本1本その目で選んできたという。都心の住まいだからこそ、自然環境にこだわる。それは三菱地所レジデンスの総意でもある。
事実、三菱地所レジデンスは、番町エリアの自然を集合住宅の植栽でつなぐ試みを行っている。
『ザ・パークハウス 五番町』は三菱地所レジデンスが手掛けたエリア内の14番目の集合住宅であり、既存の集合住宅とともに皇居から外濠公園までのエコロジカルネットワークを形成しているのだ。
都市のなかに生きる蝶や鳥が、羽を休める場所となるように住まいをつくる。人と自然が共存する環境をつくる。
それこそが三菱地所レジデンスの地域環境への貢献の仕方といえるだろう。

ゲートを抜けると、植栽のラインに沿うように歩行者用のアプローチが。
「この生物多様性保全への取り組みは、現在ではすべての『ザ・パークハウス』で採用しています。居住者の皆さんに自然を身近に感じてもらえる環境を提供したいとの想いからです。『ザ・パークハウス 五番町』の木々もいまよりもっと茂り、皇居や外濠の蝶や鳥たちが訪れてくれると思います」
井上の選んだ植栽が年を重ねるごとに育ち、鳥たちのさえずりが聞こえてくる住まい。外濠のほとりに誕生した「市中山居」でそんな贅沢な暮らしが始まっている。
集合住宅の植栽が、自然をつなぐ。環境に配慮しながら理想の暮らしを
三菱地所レジデンスでは、地域植栽の選定や周辺緑地との連携をふまえた造園緑化計画「BIO NET INITIATIVE(ビオ ネット イニシアチブ)」により、生物多様性保全に取り組んでいる。とくに千代田区番町エリアでは『ザ・パークハウス 五番町』を含め、14の物件で緑地のネットワーク化を形成。
皇居から外濠へと生態系の連鎖を構築することで、自然環境の保全に寄与するとともに、緑の豊かな普遍的な住環境の理想を追求している。
「BIO NET INITIATIVE(ビオ ネット イニシアチブ)」とは、物件規模・敷地面積の大小にかかわらず、すべての「ザ・パークハウス」において生物多様性の保全に配慮した植栽計画を行う取り組み。
この取り組みにより「点」であるマンション単体の緑地と周辺の緑地や街の緑をつなぎ、植物や生物の中継地としての役割を果たします。「点」から「面」へと広がるエコロジカルネットワークを目指しています。

【緑地のネットワーク化を形成している千代田区番町エリアの物件】
1.パークハウス・ジオ六番町
2.パークハウス 四番町
3.ルクセンブルクハウス
4.パークハウス 二番町
5.三番町パークテラス桜苑
6.番町 パークハウス
7.パークハウス 三番町
8.パークハウス 一番町
9.ザ・パークハウス 六番町
10.ザ・パークハウス 四番町レジデンス
11.ザ・パークハウス グラン 三番町
12.ザ・パークハウス グラン 千鳥ヶ淵
13.ザ・パークハウス 三番町テラス
14.ザ・パークハウス 五番町
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- 上記の物件でBIONET INITIATIVE導入物件は13、14です
ザ・パークハウス 五番町(分譲済)
JR中央線・総武線、東京メトロ有楽町線・南北線、都営地下鉄新宿線の市ケ谷駅から徒歩2分ほど。駅前のにぎわいを抜けると現れる『ザ・パークハウス 五番町』は、隣接ビル群から一段奥まった配棟により、空間の「余白」を表現。街中にあっても静かさを求める「市中山居」の理念を現代建築で実現した。