プロジェクトリポート「ザ・パークハウス 平尾浄水通り」時を重ねゆく私邸の趣。美しく、街に寄り添う。
2019年07月04日
福岡市のなかでも閑静な邸宅地として知られる平尾エリア。
その一角に現れた、全20戸の小規模レジデンスは、私邸の趣を纏い、大樹とともに時を重ねる。
photos by Shinichiro Nakazato
text by Norihiko Morita
福岡市の中心部である博多や天神にほど近く、閑静な邸宅地として知られる平尾エリア。
地下鉄薬院大通駅から福岡市動植物園へと抜ける浄水通りは、街路樹の美しいメインストリートだ。この浄水通りから一歩奥まった、ひときわ静かな場所に『ザ・パークハウス 平尾浄水通り』が、周囲の景観に溶け込むように佇んでいる。地下に駐車場を備えた地上5階建、全20戸のレジデンスは、まさに私邸の趣だ。三菱地所レジデンスが同エリアに展開してきた分譲マンションの、集大成とも言える住まいが誕生した。
四季を通じて潤いを与える緑景
エントランスアプローチをはじめ、道路との境界となる敷地際には緑豊かな植栽を配置。平尾エリアの環境に合った樹種を中心に選定している。
また、植栽により外部からの視線を遮り、プライバシーを守る効果もある。
エントランスアプローチは自然石を敷きつめた小径のような趣。
地下駐車場から道路まではゆるやかなスロープが結ぶ。
街の歴史を継承し、地域と共生する住まい。

平尾一丁目・二丁目は、鉄道駅や幹線道路に近く、商業施設が充実したエリア。そして三・四・五丁目および平尾浄水町にまたがるエリアが邸宅地として知られている。その歴史は古く、平安時代の図絵に平尾の地名が記されているほどだ。
起伏の多い地形に沿ったゆるやかな坂道を歩くと、歴史ある街の風情を垣間見ることができる。この平尾エリアで『ザ・パークハウス 平尾浄水通り』は3棟目の「ザ・パークハウス」となった。
開発に携わったのは三菱地所レジデンス 九州支店に所属していた横幕透子。土地の魅力と地域への配慮を重視し、年月を経て街と調和していく邸宅を目指した。
「もともとこの敷地には大きな楠がそびえていました。平尾の街を見守ってきた大樹に敬意を払い、保存するのが私たちの使命だと感じ、楠の周囲を歩道として一般に開放する計画を立てました」
横幕が言うように『ザ・パークハウス 平尾浄水通り』の西側の角には棟の高さを超える楠が枝をのばしている。その偉容は、居住者のためのシンボルツリーというよりも、やはり街の守り神。地域の人々に癒やしを与える存在に感じられる。だから横幕たち開発グループは楠を保存し、その周辺を開放したのだ。
地域とともに歩む住まいを提供する。それは、これまで『ザ・パークハウス 平尾』(2013年12月竣工)、『ザ・パークハウス 平尾レジデンス』(2015年12月竣工)と、同エリアの開発を進めてきた三菱地所レジデンスの考え方でもある。
地域との調和を図る住まいづくりへの取り組みは、人々の暮らしやすさや安全性の向上にもつながっている。
楠の根元のそばにある小階段を上がると、棟の南面に沿って歩道が整備されている。これも新たに設けられた歩道状空地だ。南側の道路は交通量の割に道幅が狭く、かねてから隣接する幼稚園や小学校の児童が通学するのに危険だという指摘があった。そこで建物をセットバックして歩道を確保。地域の安全に配慮した。
「建設中は子どもたちを招いて工事現場の見学会も開催したんです。現場の職人さんやガードマンさんへの『がんばって!』とのお手紙に感動しました。住まいづくりは街づくりでもあるんですね」
敷地西側の角に立つ楠。地上5階建の『ザ・パークハウス 平尾浄水通り』を優に超える大きさ。
エントランスサイドからの景観。
楠のそばの階段を上がると歩道状空地へとつながる。
棟の南側に設けた歩道状空地。通学児童の安全に配慮した。
子どもたちを招いた施工現場見学

子どもたちからは「いつもありがとう!」「がんばって!」といった多くの手紙が届いた。
『ザ・パークハウス 平尾浄水通り』に隣接する幼稚園の子どもたちに向け、施工現場見学会を開催した。
「モノづくりの仕事」に理解、関心を深めてもらうとともに、現場関係者全員で地域との良好な関係構築を目指した。
暮らしを彩る浄水通り
平尾エリアでの暮らしは、浄水通りの並木道を歩くことから始まる。
通りにはカフェやレストラン、セレクトショップなどが並び、緑が豊富な周辺環境もこのエリアの魅力。そして、そんな平尾の街に寄り添うように、『ザ・パークハウス 平尾浄水通り』が誕生した。
美しい街路樹が四季折々の表情を見せてくれる浄水通り。
浄水通り交差点を北に曲がると現れる「カトリック浄水通り教会」。
浄水通り沿いのチョコレートショップ「カカオロマンス」。『ザ・パークハウス 平尾浄水通り』からは徒歩5分ほど。
小高い丘となっている「浄水緑地」。福岡市動植物園を中心に緑が豊富なのも平尾エリアの魅力。
プライバシーを守る設計プラン。20戸に2基のエレベーター。
『ザ・パークハウス 平尾浄水通り』の販売を担当した藤井佑至は、かつて平尾エリアで販売した2棟の経験、そこで得たお客様の要望を元にどうしても実現したいことがあった。それは、より広い間取りの住戸を用意すること。希少性、資産性が高く、プライベートな空間としての魅力を備えた広々とした住戸を求める顧客層、需要があることを藤井は理解していた。
その知見をもとに『ザ・パークハウス 平尾浄水通り』では最上階に200m2以上の住戸を2戸用意。最上階居住者には駐車スペースもそれぞれ2台ずつ確保した(総駐車台数22台〈全20戸〉)。
「プライバシーを重視して駐車場は地下に設置しています。また、全20戸に対して、エレベーターを2基設置。エントランスホールに入り、棟の左右に動線を分けることで、専用エレベーターのようにご利用いただけると考えています」

折上げ天井で空間にアクセントを加えたエントランスホール。2基のエレベーターが左右に配されている。
藤井が説明した地下駐車場は、実はエントランスと同じフロアにある。つまり、勾配のある敷地の特徴を生かし、地表部分にエントランスホールとラウンジ、地中部分を駐車場とした。自然の地形を活用することで居住者の利便性を図る計画だ。
また、この規模のマンションに2基のエレベーターを設置するというのも大胆な発想。内廊下とともに、可能な限り居住者のプライバシーを守るための設計を施している。私邸のあるべき姿を考え抜いた結果だ。
そして建物そのものへと目を向けると、2基のエレベーターと階段を囲むエントランス側2列の外壁および南面の柱状外壁には磁器質タイルを採用し、燻されたような趣のある表情を与えている。

エントランスホール、風除室を出ると豊かな植栽が目の前に。
そのほかの外壁部分には土の風合いのせっき質タイルを採用することで温かみのあるイメージを纏わせた。さらに擁壁には割肌の自然石を選定。
「年を重ねるごとに美しさを増すレジデンスを目指した」と藤井、横幕が言うように、経年変化を考慮し素材を厳選している。これらも私邸と言うべき上質感、歳月をかけて価値を創造する試みと言えるだろう。
エントランスへのアプローチは道路から十分な距離が確保されているとともに豊かな植栽に囲まれることで、プライバシーが守られていると感じられた。そして、由緒ある旅館を訪れたような迎賓の趣も魅力のひとつに挙げられる。

ラウンジの大きな窓から葉がそよぐ風景を眺める。読書をしたり、語らったり、思い思いの時間を過ごす場所。
内部へと目を移すと、エントランスホールから2段下がった空間がラウンジスペース。壁面の木調パネルが落ち着いた雰囲気を醸し出し、窓の向こうの緑が季節ごとの風景を楽しませてくれる。花咲くころになれば、また違った景観を見せてくれそうだ。
昨年の1月に竣工を迎えた後、横幕は部署を異動し東京勤務となったが、出張で福岡を訪れるとたびたび『ザ・パークハウス 平尾浄水通り』まで足を運んだと言う。昨夏の訪問時は「植栽が青々と成長していてうれしかった」と、顔をほころばせる。
さて、この春はどのような発見があるだろうか。そのときは、真新しいランドセルを背負った子どもたちが、にぎやかに楠の大樹を見上げている光景に出合うかもしれない。
温もりを感じさせる共用スペース

温かみのある調度が、落ち着いた空間をつくりあげているラウンジ。
エントランスホールの正面には、外壁にも採用している磁器質タイルで3本のラインを表現し、オブジェのような存在感を演出。
ラウンジには木調の壁面パネルを採用し温かみのある空間を求めた。窓から見える植栽、唐津焼の花瓶、落ち着いた色合いのソファや椅子が至福の時を約束してくれる。
植栽を囲む石積みや擁壁には割肌の自然石を採用。国産の一枚石から切り出している。
全戸に用意された地下駐車場。駐車場にも上質感を求め、照明にこだわった。

ザ・パークハウス 平尾浄水通り(販売済)
福岡を代表する邸宅地、平尾エリアに立地する全20戸の小規模レジデンス。既存樹の楠を保存し、敷地内の緑量を多くすることで、緑に恵まれた街並みとの調和を目指した。また、プライバシーを重視し2基のエレベーターを設置。エントランスアプローチを深くとることで外部からの視線にも配慮している。外壁材、内装にもこだわり、私邸と呼ぶにふさわしい住まいを実現した。
● 所在地/福岡県福岡市中央区平尾3丁目376番1
● 構造・規模/鉄筋コンクリート造・地上5階、地下1階建
● 総戸数/20戸
● 竣工/2018年1月
● 売主/三菱地所レジデンス(株)
● 施工会社/大末建設(株)