プロジェクトリポート「ザ・パークハウス 千歳烏山グローリオ」斬新なアイデアが生み出した多世代に向けた街づくり。
2017年02月22日
1958年に建てられた旧住都公団烏山第一団地。
長年にわたって周辺の住民から愛されてきた団地の記憶を継承し、さらに地域との共生もテーマに据えられた再生プロジェクト。
革新的なアイデアをもって挑戦を続けた先に現れたのは、多世代が快適に暮らせる環境づくりと街づくりの礎であった。
text by Yuji Iwasaki
photos by Yoko Sawano
東西に貫通する道路を挟んで北側に位置する、『ザ・パークハウス 千歳烏山グローリオ』のエアリーコート。防汚対策として、外壁には最新の光触媒技術を採用している。
昭和30年代以降、東京都内では数多くの公団住宅が建てられていった。そのひとつに、『公団烏山第一団地』がある。最寄りの千歳烏山駅までは徒歩3分ほど。地域住民は駅までの近道として団地の敷地を通り抜け、子どもたちは空き地を遊び場としてきた。
まさに地域に根づいた団地だったものの、竣工から50年以上を経て建物も老朽化。2013年、『ザ・パークハウス 千歳烏山グローリオ』のプロジェクトが立ち上がった。
三菱地所レジデンスとともに共同事業者として関わったのは、国内最大手の警備サービス会社であるセコム株式会社のグループ会社、セコムホームライフ株式会社である。これまで「グローリオ」ブランドの集合住宅を数多く手掛けてきた実績を持つ。セコムホームライフの石原礼子氏が説明する。
「セコムグループには、訪問看護・介護、デイサービス、有料老人ホームなど、医療・介護・健康に関わる事業を手掛けてきたセコム医療システム株式会社という会社があります。シニアレジデンスも展開していたので、千歳烏山でもシニア向けの住戸や施設を選択肢に入れていました。ただ、事業規模を考えたときに、大手ディベロッパーの協力が必要という判断になったのです」
以下、開発前の『公団烏山第一団地』時代の写真。(写真提供:長谷聡氏)
住宅棟の脇に通る歩道。
歩道脇には、直接植えられた木々や鉢植えの草花が。
各棟でアクセントカラーとして用いられた赤色は、『ザ・パークハウス 千歳烏山グローリオ』のエアリーコートとサザンコートのエントランスで継承された。

14号棟には傾斜屋根が採用されている。全20棟以上が建てられたが、そのほとんどが低層の分譲型住宅であった。

敷地内に設けられたプレイロット。背後の建物は陸屋根となっている。
多世代の暮らしを創出した間取り。

三菱地所設計が制作した原案スケッチ。 2戸を除く3つの住戸で、玄関寄りにリビングを配置する間取りが描かれている。
※イラストは、販売時の間取りとは異なります。
三菱地所レジデンスの担当者として、初期段階から携わった菅野裕治はいう。
「開発に際しては、世田谷区から東西を貫く道路づくりを条件に出されていたほか、『駅までの通り道をつくってほしい』という地域住民からの要望が届いていました。そこで、北側にエアリーコート、南側にサザンコートという配棟計画を立て、その建物のあいだに貫通道路を設けることから始めました」
また、「桜の木を残してほしい」など、愛されてきた景観や環境の継承を望む声にも応え、提供公園に既存の木を移植する段取りも進められていった。
定期開催されていた打ち合わせの場には、三菱地所レジデンスとセコムホームライフの担当者のほか、三菱地所設計やメックecoライフなど三菱地所グループ各社のメンバーも参加していた。その席で石原氏は、当初からキーワードに挙げていた「シニア向け」について、「シニアらしくない住まいでありながら、身体に不具合が出てからも対応できる住戸」というセコムホームライフとしての方向性を伝えた。
そして、一部の住戸をシニア向けにすることが決まった段階で、三菱地所グループ各社から画期的な間取りが提案された。当時、メックecoライフに在籍していた根本由美子が経緯を語る。

販売時には「ユニバーサルプラン」と名付けられ、モデルルームでも注目を浴びた。
「メックecoライフでは、一般の方からご意見やアイデアを募りながら、より良い暮らし方を考える『スマイラボ』という研究室をWEB上に展開しています。ですから、住まいに関するアイデアについて、よく相談されるんです。千歳烏山の物件では、スマイラボで収集したデータをもとに、東西に開口部のある配棟を活かし、玄関を開けて入った最初の空間にリビングを配置する間取りを提案しました。玄関からすぐにリビングがあると、プライベート空間へ続く廊下が必要なく、そのぶん収納を増やせるメリットもありました」
提案時には、より具体的にイメージしてもらえるよう、三菱地所設計が手描きスケッチを用意した。さらに石原氏からは、コンパクトでありながら豊かに暮らすアイデアが出された。「床をフルフラットにする」「水回りを含め室内の扉をすべて引き戸にする」「廊下は短く、かつ車椅子利用も視野に入れて有効幅を1mにする」「動線上には手すりの下地を設置する」といったものである。
その後、この間取り案は、「ユニバーサルプラン」と命名され、多世代が暮らす集合住宅という新たな価値とコミュニティの在り方を導き出すことになった。
次々と導入された斬新なアイデア。

ハイドロテクト
外壁には〈ハイドロテクト〉と呼ばれる光触媒技術を導入。汚れが付きにくいうえ、付いてしまった場合でも落としやすい特徴を持ち、白い壁面を長く保ってくれる。
実はユニバーサルプランは、『ザ・パークハウス 千歳烏山グローリオ』の先進性を示す一例に過ぎない。他にも、三菱地所レジデンスとメックecoライフは数多くのアイデアを導入している。根本が明かす。
「ユニバーサルプランの住戸前の共用廊下にベンチを置いて、居住者同士のコミュニケーション創出を促す『コミュニケーションコリドー』。エントランスから住戸へと向かう動線に機能を持たせ、居住者間の情報交換に利用できるコミュニケーションボードや、届いた荷物をその場で荷解きできる台を置いた『ユーティリティスペース』。これらも、メックecoライフから出されたアイデアがベースになっています」
一方、三菱地所レジデンスは、建物の外で新たな技術や試みに挑んだ。菅野が説明する。
「外壁で採用された『ハイドロテクト』は、光触媒の特性を生かした技術です。汚れを付きにくくするだけでなく、付いた汚れを分解したり、雨水が汚れを浮かして流すなど、セルフクリーニングの効果を備えています。また、東西を貫く歩道状空地「ブリーズアベニュー」と南北をつなぐ敷地内の小径「シーズンプロムナード」では、独自の植栽計画を試みました。在来植物を50%以上採用したうえ、チョウが好む植物を植え、鳥が立ち寄りやすいバードバスや巣箱を設置したのです」
実は植栽計画の中には、居住者が親睦を深めながら自然観察できるプログラムまで含まれている。この生物多様性の保全に向けた試みによって、『ザ・パークハウス 千歳烏山グローリオ』は、日本で初めてABINC認証※を取得した集合住宅となっている。
セコム医療システムが、隣接地に建てた総合型地域ケア拠点『セコムカレア千歳烏山』も、これまでにない存在感を放ちつつある。運営を担う奥田真弘氏が語る。
「既存の介護サービスに加えて、介護が必要ない方も対象に含めた文化系とスポーツ系のウェルネスサービスを充実させています。『ザ・パークハウス 千歳烏山グローリオ』にお住まいの方もよく参加されています」
プロジェクトが立ち上がった当初、1万m2の敷地で想定されたテーマは、「団地の記憶の継承」と「地域との共生」であった。2棟それぞれのエントランスで団地のアクセントカラーとなっていた赤を用いたのも、既存樹の欅を残したり桜を移植したり、愛されてきた景観を再現したのも、そのためだ。さらに加わった数多くの斬新なアイデアは、多世代の居住者が豊かに暮らすという、地域の発展に結びつく環境を整え始めている。地域と人が育む街づくりの最新形は、今後も千歳烏山から発信されていくだろう。
コミュニケーションコリドー
ユニバーサルプランの住戸に面した共用廊下には、自由に座ることができるベンチを設置。縁側のように、出会った人々が会話する機会を創出する。イメージイラストはメックecoライフによるもの。

ユーティリティスペース
届いた荷物を、その場で荷解きできる台を設置。ゴミ置き場が近いので、梱包素材をすぐに捨てられ、必要なものだけを部屋に持ち帰れる。居住者間の交流に役立つコミュニケーションボードも。

シーズンプロムナード
南北をつなぐ貫通道路。季節ごとに表情を変える草木が数多く植えられており、日々の生活の中で自然を感じられるように配慮している。
巣箱
植栽には、花や実のなる植物を多く採用。さらに、鳥の巣箱も設置し、さまざまな生き物が共生しやすい環境を整えている。集合住宅として初めてABINC認証※を取得。
桜の木
提供公園に立つ桜の木。開発前、敷地内で地域住民に親しまれてきたものを移植したもので、今なお春になると、多くの人たちが仰ぎ見る存在となっている。
外構のオブジェ
外構には、二十四節気をテーマに綴った言葉を、そのままモチーフに採用したオジェが何種類も置かれている。見つけて読んで、自然を感じ取ることができる。
※ABINCとは
一般社団法人いきもの共生事業推進協議会が、自然や地域、共同体と共生した土地利用に取り組みやすい世界の実現に貢献することを目的に生物多様性に配慮した緑地づくりや管理・利用の取り組みを第三者評価・認証しています。三菱地所レジデンスでは、『ザ・パークハウス 千歳烏山グローリオ』をはじめ、一般社団法人いきもの共生事業推進協議会(ABINC:エイビンク)の「いきもの共生事業所®(*1)認証(通称:ABINC認証)」を、累計8物件において取得しています。
(*1)いきもの共生事業所®はJBIBの登録商標です。
ザ・パークハウス 千歳烏山グローリオ(販売済)
● 所在地/東京都世田谷区南烏山5丁目561番110他(地番) ● 構造・規模/鉄筋コンクリート造・地上10階地下1階建(エアリーコート)、鉄筋コンクリート造・地上8階地下1階建(サザンコート) ● 総戸数/265 戸(エアリーコート147戸、サザンコート118 戸) ●売主/三菱地所レジデンス(株)、セコムホームライフ(株) ● 施工会社/(株)フジタ ● 設計・監理/(株)三菱地所設計 ● 竣工/2016年3月